清教学園、文部科学省の委託事業「学校図書館の活性化に向けた調査研究」を実施 ~司書教諭の関わりにより、高校生一人あたりの年間貸出冊数(ノンフィクション)が5倍増加・学習者主体のテーマ設定が、探究学習における学習意欲向上の前提であることを明らかに~
2022年07月28日 10:00
「一人ひとりの賜物を生かす」ことを掲げ教育活動を展開する清教学園中・高等学校(大阪府河内長野市、校長 森野 章二 以下「本校」)では、この度、文部科学省からの委託事業を実施し、「探究学習と図書館活用のギャップを埋める授業実践の検討」について研究を行いました。
【本委託事業の実施背景】
児童生徒、とりわけ高校生の不読率の改善が求められています。第66回学校読書調査概要※1によると、全国の高校生のうち、1ヶ月間に本を1冊も読まなかった生徒の割合は、49.8%と高い数値です。また、学習指導要領の改訂により、2022年度から新科目「総合的な探究の時間」が設置。生徒に対して一方的に知識を伝達する授業とは別に、生徒自らが興味関心のあるテーマを見いだし、図書館等を活用しながら自発的に学習を進めていくための授業が求められています。
文部科学省はこうした背景から、「学校図書館の活性化に向けた調査研究委託事業」を実施しています。不読率の改善、自主・自発的な学習活動といった課題を、学校図書館の取組みにより改善向上していくことが研究事業の目的です。本校は2021年度の事業を文科省より受託。調査研究を実施しました。
清教学園は「学校図書館賞」(2014)を受賞した図書館「LIBRALIA」を有しており、図書館を活用した授業を推進してきました。とくに中学での実践「卒業論文『なんでやねん』」の取組みが実り、中学生一人当たりの年間貸出冊数は42.7冊を達成しています。
一方で、本を読まない傾向にある全国の高校生と同様に、本校高校生においても図書館機能の活用は芳しくない状況です。清教高生が取り組む探究学習「Global Studies」の学習データを参照すると、2020年度の成果物作成に用いられた参考図書冊数は、平均0.17冊でした。生徒は専門家によって著された図書を参考文献として用いず、体よくまとめられたWeb記事(まとめサイト等)で代用している実態がわかりました。「研究」の名を冠することも多い探究学習で、学問的な誠実性が問われるこのような状態は、同様の授業に携わる全国の先生方の悩みでもあります。
これらの背景から、文科省の調査研究に参加。「探究学習と図書館活用のギャップを埋める授業実践の検討」をテーマに研究を行いました。授業で活用できる図書館の体制がすでに整っており、実績もありながらも、なぜ高校の探究学習で図書館が活用されないのか。その理由を明らかにし、授業改善を模索しました。さらに、実施した授業実践と図書館の活用が、どのように探究学習に貢献したのかを検証しました。
【「探究学習と図書館活用のギャップを埋める授業実践の検討」に関する実践報告の主なトピックス】
1. 仮説設計のための事前調査を実施
- 授業を履修した既卒生、担当した教員に聞き取り調査を実施
- 過去の学習成果物データ、利用統計から、図書館の活用状況調査を実施
2. 仮説の設計
- 仮説1) 生徒主体のテーマ設定であるほど、探究学習に対する学習意欲が向上し、生徒は図書館を活用するのではないか
- 仮説2) (仮説1)に基づき授業を設計し、さらに図書館スタッフから図書探索の支援を受ければ、図書館の利用統計データにも変化が現れるのではないか
3. 施策立案と実行
- 施策1)カリキュラム改定
- 施策2)授業改善
4.検証結果
- 結果1:生徒主体のテーマ設定で研究を行った生徒の方が、「研究に興味を持って取り組むことができたか」「研究テーマに関する知識の理解」などのアンケート設問で、よりポジティブな結果となり、学習意欲の向上が示された
- 結果2:生徒主体のテーマ設定で研究を行った生徒の方が、図書館を活用して学んでいた。とりわけ、図書館スタッフ(司書教諭)が授業を担当したクラスでは、70%以上の生徒が3冊以上の図書資料を参考にし、さらに20%近くが「自分の研究に必用不可欠な図書資料があった」と回答した。また、学年全体の一人当たり年間貸出冊数(ノンフィクションのみ)が、過去データとから約5倍に向上した。
【考察】
以上の結果から、カリキュラムを改訂し、生徒主体のテーマ設定で学んだ高校2年生の方が、教員主体のテーマ設定で研究を行った高校1年生よりも、学習意欲が高い傾向にあることがわかりました。「自分が興味を持つ事をテーマに選ぶ」という授業設計が、生徒が本来持っている主体性とマッチし、よい結果に繋がったと考えられます。
また、学習意欲の向上は図書館の利用統計にも顕著に表れています。手元の端末でお手軽にWeb検索するのではなく、専門家が書いた図書に生徒が自ら手を伸ばし、複数の文献を読みながら自ら研究を進めていたこともまた、学習意欲の表れと捉えることが出来るでしょう。
さらに、生徒の研究活動を下支えする存在として、図書館スタッフ(司書・司書教諭)が関わっていたことも、良い結果に繋がった要因でした。同じ高2生のデータでも、司書教諭が授業を担当したか否かで図書館活用に差が出ており、「図書館は頼れる」という生徒からの信頼感の表れと考えられます。
(研究事業担当 司書教諭 / 山﨑 勇気)
【生徒からのコメント】
「たくさんの本が置いてある図書館で自分が参考にしたい本を見つけることは大変だけど、司書の先生に言ったら『その本はこの分野にある』と教えてくれた。また、借りたい本の名前を言わなくても『こんな感じの本が欲しい』と言ったら、何冊も見つけてくれた。『どんな本を借りればいいか悩んでいる』と言ったら、いろいろな種類の観点から書いた本を紹介してくれたので、とても頼ることができた」
「自分が欲しいと思っているような本について、『どんな内容のものが欲しいのか』やキーワードをちょっと伝えるだけで、次の授業までに準備をしてくださったので、とても助かった。今までは小説しか借りたことがなくて、研究で使ったようなノンフィクションがこんなにたくさんあったなんて知らなかったので、たくさんの本から必要な本を選ぶのが大変だったけど、たくさん本があった分、自分にも読み易い本が見つけられたので良かった」
「こちらが頼んでいない時にも、司書の先生が私の研究テーマを分かってくれていて、授業中に本を勧めて下さった。その本が研究にすごく役立った。先生が『これとか研究テーマにあいそう』とたくさん本を持ってきてくれた。特に相談とかはしていなかったのに、知りたいことドンピシャで当てはまる文献をたくさん持ってきてくれて助かった。それに加えて、先生自身の知見を加えてくれてとてもわかりやすかった。」
「Webと図書、2つの手段にはとてもおもしろい違いがあった。Webは、上手く検索すれば自分の知りたいことを最短で知れる。しかし、逆に言えばそれ以上も以下もないので、あまりテーマが広がらなかった。それに対して図書では、自分が知りたいことの他にも、付随する関連知識がたくさん述べられていて、『へぇ、そーなんや』と思うことがいくつもあって、とても深く理解ができ、テーマも広がった。これこそが、今回の自分が研究した「不便益」に相当するものだと思って、とても実りのある研究となった」
「本を探している時に、図書館の先生に聞くとすぐに教えてくれた。自分たちが探している本だけでなく、研究に関連するおすすめの本も紹介してくれた。関連の本はテーマ決めにも役立った。下調べの段階でその分野の本をある程度広い範囲で提示して下さったので、具体的な研究の方向を決める際に助かった。一見、自分たちのテーマと関係がないように見える本も、大事なことが書いてあったりして、多くの図書資料を参考にすることは研究をより深いものにするのには不可欠だった」
※1 第66回学校読書調査
https://www.j-sla.or.jp/material/research/dokusyotyousa.html
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なお、詳細のプレスリリース内容については、
ファイルの添付しておりますので、あわせてご確認ください。
よろしくお願い申し上げます。
学校法人清教学園
清教学園中・高等学校
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【取材に関するお問い合わせ】
清教学園中・高等学校 法人事務局 広報担当:植野 公稔
TEL:0721-62-6828 E-mail:hq@seikyo.ed.jp
URL:https://www.seikyo.ed.jp/
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学校法人清教学園のプレスリリース
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