流産・死産経験者の悲しみに寄り添い支える。葛藤を抱える医療従事者とあり方を考える研修会開催 〜三重県初|小さなお子さまを見送る服「おくるみ」1周年〜
「いのち」に向き合うお寺 浄土真宗本願寺派 走井山 善西寺(所在地:三重県桑名市、以下、善西寺)は、2022年より、当事者と医療従事者との連携の上、出産前後(以下、周産期)に亡くなった小さなお子さまを見送る服を手縫いするプロジェクト「おくるみ」を展開してきました。
1年を迎えるにあたり、プロジェクトを通して起きている事象を報告すると共に、悲しみに寄り添い支える医療従事者との研修会を3月3日(日)に善西寺(桑名市西矢田町)にて実施します。
対応に課題を抱えながらも真摯に向き合う現場の感情や事例の共有を軸に、当事者・医療従事者・寺が連携するコミュニティの意義を考える機会を創出します。
■見過ごされてきた流産・死産経験者のケア
赤ちゃんがおなかの中で成長しても、生まれる前に亡くなる「死産」。日本では、妊娠した女性の7人に1人が流産を経験し、年間約2万人の女性が死産を経験しています。
流産や死産は、周囲が亡くなった子の存在を認識することが難しく、悲しみや喪失感を共有できず孤立する傾向があり、経験女性の65%にメンタルヘルス上の問題が指摘されています。(※1)
近年の晩婚化・晩産化に伴い、周産期の喪失に苦しむ人は増加。厚生労働省が、2021年より不妊治療支援の一環として、周産期(※2)の喪失に寄り添う「グリーフケア(※3)」の実施を呼び掛けるなど、支援体制の整備が求められています。
※1厚生労働省「令和3年流産や死産等を経験した女性に対する 心理社会的支援に関する調査研究」より
※2「周産期」とは妊娠22週から出生後7日未満までの期間
※3グリーフとは悲嘆のこと。死別などの喪失体験による深い悲しみをともなう情緒反応。グリーフケアとは、身近な人を亡くした悲しみや喪失感を周囲が支えること
■三重県初。見送る服を手縫いし、医療機関へ無償提供する「おくるみ」
人生で起こる様々な喪失。本来、お寺は喪失体験を受け入れる場です。善西寺では、2018年から周産期に大切なお子さまを亡くされたご家族の悲嘆をサポートする「グリサポくわな」を展開。
2023年2月からはグリサポくわな内にて、三重県初となる、小さなお子さまを見送る洋服を手縫いし、医療機関に無償提供するプロジェクト「おくるみ」を立ち上げました。
納棺時、せめて最期にかわいい姿で見送りたいと願うものの、小さなお子さまに市販品は大きすぎ、かえって悲しみが強くなります。「おくるみ」では、当事者である親たちが、サイズがぴったりと合う服で、ご家族の心に我が子の姿を焼きつけてもらいたいと願いから洋服を手縫いし、作り手の想いを添えて、産婦人科や周産期医療センターへ無料提供しています。
■葛藤を抱えながら向き合う医療の現場
おくるみの運営は、当事者を中心に、グリーフケアに取り組む看護師や助産師、宗教者などが連携。
精神的な回復に大きく影響する医療現場での適切なケア。日本助産学会によるガイドラインも2020年に新たな見直しが行われ、当事者の気持ちに配慮しつつ、抱っこ・写真撮影・記念品づくりなどの触れ合いを提案し、話し合うことが推奨されています。
グリーフケアの強化が求められる一方で、医療従事者の多くは、患者の感情と自分自身の感情に葛藤を抱きながら、真摯に向き合っており、これまでも自ら手縫いの服を贈るなど、現場での模索をされていました。
■求められる長期的なサポート
おくるみのメンバーは裁縫のため定期的に集まり、心を癒す時間と空間を共有しています。
善西寺としては、当事者の気持ちに寄り添い、「グリサポくわな」と連動させつつ、相談窓口の設置など、包括的なケアに取り組んでいます。
おくるみは使用した日時やサイズ、ドレス番号やコメントを、個人情報として問題の無い範囲で回収しており、個人情報保護に考慮しつつも、医療者との連携を図る仕組みにしています。
■おくるみで繋ぐコミュニティ。医療従事者との研修会
「おくるみ」1周年を機に、プロジェクトを通して起きている事象の報告を行う予定です。今回は、医療従事者中心に、当事者・医療従事者・寺が横断的なコミュニティとして連携する意義を考える場を目指します。
■【周産期グリーフケア研修会〜「おくるみ」をおくるということ〜】
日時:3月3日(日)13:30〜15:30
会場:善⻄寺本堂および MONZEN(桑名市西矢田町27-2)
目的:周産期のグリーフについて共に学びを深め、「グリサポくわな」が取り組む「おくるみ」の活動を地域にひろく発信し、活動の周知を図る。さらにはご利用いただく医療スタッフとの連携を深め、引き続き有効な活用をすすめる。
内容:周産期のグリーフサポートについて(グリサポくわな代表 矢田俊量)|おくるみの紹介( おくるみリーダー 大瀬康子)|連携機関による事例報告(連携医療機関の代表者2〜3名)
併催:おくるみ展示&製作見学|MONZEN 見学&呈茶菓
料金:無料|定員:30名|対象:医療・福祉従事者・行政関係者
申込:https://docs.google.com/forms/d/1F84ZjdRqUUnE7PVXG-1_vaQ0Im316mHMt8czcpb77PQ/edit
問合せ:0594-22-3372|メール:zensaiji987@gmail.com
※当事者向けのグリーフケアの場は毎月設けております。上記へお問い合わせください。
■おくるみについて
料金:無料|提供品:洋服・帽子・マスコットなど|サイズ:14cm〜40cm ※詳細資料別紙
取扱機関:桑名市総合医療センター・愛知厚生連・海南病院産婦人科など、北勢地区6施設
(順次、連携先追加予定)
■「生命科学」研究者であった住職が「いのち」に向き合うお寺へ
善西寺は、チャイルドファーストをテーマに掲げ、こども食堂やフードパントリー、無料学習支援などを展開しています。生命科学の研究者というキャリアを持つ住職だからこそ、現在に求められる寺の姿を模索し、医療・福祉のコミュニティのハブを目指しています。
■矢田住職の想い:地域共生社会へ向けて
「こんにちはも言っていないのにさよならできない」流産・死産経験者のお言葉です。辛さを乗り越える最初の関わりが現場の医療従事者となる一方で、十月十日見守ってきた患者の、産声のない静かな出産に立ち会う多くの従事者は、死にとまどい、患者やその家族にかける適切な言葉を失い、困難なケアに向き合っています。
「おくるみ」では、退院後の当事者・医療従事者との関係性を紡ぐことを目指しています。
活動から1年。裁縫のため定期的に集まり、辛い経験や葛藤を語り合うなど、心を癒す時間と空間を共有することで、乗り越える場へと繋がると共に、どんな人たちがどんな想いで、寄り添い支えようとしているのかを丁寧に可視化することで、おくるみというコミュニティが築かれつつあります。
厚生労働省では、高齢者人口増と生産年齢人口減が同時に起きる2040年に向け、地域の多様な人たちがつながり・支え合う「地域共生社会」への指針を出しています。肝となるのは、世界保健機関(WHO)による健康都市政策や、各国の緩和ケア提供体制に限界があると指摘される現代社会に対する方策として、世界的に注目される概念「コンパッション コミュニティ( 死と喪失を受けとめ、支え合う関係性)」と云われています。
■今後の展開
今後も順次連携する医療機関を増やす予定です。深い悲しみを「抱える人」がいて、葛藤しながらも「支える人」がいる。今後も周産期の喪失ケアについての現状を丁寧に伝え、お寺として地域包括ケア・地域共生社会を考える上で、広い視野とコミュニティのあり方を模索して参ります。
■住職 矢田俊量(やだ しゅんりょう)について
1963年桑名市生まれ。名古屋大学大学院理学研究科修了。理学博士。生命科学の研究者が尊いご仏縁により僧侶に転身。向きあう対象は「生命」から「いのち」へ。専門はグリーフサポート。生老病死をはじめとする四苦八苦とよばれる人生の苦の中で最も厳しいとされる「愛別離苦」を対象に、グリーフサポートに取り組み各種団体・公的機関でサポート活動を続け24年目。「いのち」に向き合う現代の宗教者のカタチを模索しています。
桑名市総合医療センター治験審査委員・研究倫理委員・病院倫理審査委員
■善西寺について
住職:矢田俊量|所在地:三重県桑名市西矢田町27-2||HP:https://mytera.jp/tera/zensaiji30/monk/
「いのち」に向き合う、グリーフサポートのお寺。
■本件に関するお問い合わせ
窓口:福田
TEL☎:080-5984-7800
mail✉:support@on-co.co